地下室の手記 5枚目
牢屋の中はトイレを含めて4畳の畳張りであった。誰もいない1号室に案内された。
留置場は洗面台を中心にやや扇形に6つ配置され、部屋番号は4以外の1~7まであった。
犯罪を犯した人に対しても、縁起を気にしているのだろうか。
牢屋に案内される前の身体検査時にスリッパに履き替える。その時のスリッパに書かれている番号で今後呼ばれるそうだ。私は52番だった。
深夜だったので周りの留置者は寝ており、細かい建物の構造は分からなかった。
ちなみに、地下室の手記と銘打っているが、留置場は地下にはない。
文学が好きな人なら、引用元も分かるだろう。
留置場は警察署の奥まったところに存在していた。
午前3時を回ったくらいに留置場に入った自分は、牢屋の外にある押し入れに布団を取りに行き、布団と枕にカバーを付けて布団を敷いた。
錠が下ろされる。大きな音が留置場に響いた。
鍵は1箇所では無い様で、真ん中、上、下の順に鍵を掛けていた。
こちらからは当然取っ手すら無いため、開けようと試みることすらできない。
入口の脇にある15cm×15cmくらいの窓が開き、ちり紙を渡された。
トイレに紙は無く、これで鼻を噛んだり尻を拭いたりしろと言われた。
初めての体験が立て続けに起こった疲労感と、自分がここにいなければならないことに対する怒りと、先の見えない不安から、布団の上でしばらく一人で考え事をしていた。
当時学部生だった私は、期末テストも、レポートの提出も、インターンの面接も近くに控えていた。
一体どれくらいいなければならないのだろうか。
この何もない4畳の獄中に、1日だけでも果たして耐え得ることができるのだろうか。
遠くの部屋からいびきが聞こえる。
部屋と言っても勿論警察官から中が見えるように、入口とその反対側は格子になっており、外の音を良く拾う。
留置場自体は暗くされているが、監視のために廊下は明かりがついており、夜になっても自分の世界というものは存在しなかった。
捕まったとは言っても、これが刑務所に行くようなものでは無いことは自分でも分かっていた。
2,3日耐えられれば出られるだろう。
そう思って不安を押し殺し、自ら自分だけの世界を作り潜り込んだ。