地下室の手記

獄中日記

地下室の手記 1枚目

昨年の話である。夜中の事だった。

午前1時になろうかとする時に、玄関のベルが鳴った。

 

こんな夜中に?誰が?

インターホンの画面には知らない女性が1人だけで立っていた。

 

私には数年お付き合いしていた人がいたが、その女性は彼女では無かった。

 

「○○(彼女)の事でお話が…。」

 

そう切り出した女性であったが、違和感しか感じなかった。

 

相談事で友達を連れてきたなら、彼女もそこにいて然るべきであるし、直接言えなくて友達に頼んだとしても、初対面の人を相手に深夜押し掛けるのはあり得ない。少なくともそういう人を友達にするような彼女では無かった。

加えて彼女は私の家から電車で通う距離にある。この時間は終電も無い。

私の家の近くに知り合いがいるという話も、その可能性も無かった。

 

怪しいというより、不思議だと感じた。そういう気分だった。

 

「どなたですか」

 

ずっと相手の素性を聞いていた。その女は「○○(彼女)のことで…。」としか言わない。埒があかないと感じたし、向こうも感じていただろう。画面の横から男が出てきた。

 

「警察。早く開けて。」

 

それだけ言った。色々な考えが頭を巡ったが、最初に女が言ったことを考えると、彼女絡みの事なのだろうと思った。従うしかなく、玄関を開けた。

 

正直全く心当たりが無いわけではなかった。彼女と喧嘩することはしばしばあった。

先日も激しく口論した。その事で注意されるのだろうかと考えた。

 

予想は半分当たり、半分外れた。

 

警察は既に逮捕状を取っていた。

 

更に裏に隠れていた5,6人の警察が、私の家に入ってきた。

私の家は木々が側にあり、虫が入ってくるから窓すら開けたことが無かったのに、警察はそんな事はお構いなしに玄関を開けたままにした。

 

「変な気起こすなよ」

 

そう釘を刺されたのは覚えている。ふざけるなと思った。

私をどんな暴力的な人間だと思っているのだ。

ただし、私は逮捕状を取られている。これから逮捕されるのだ。

逮捕されるような犯罪者は皆自分のことを普通の人間だと思っているのだろうか。

私もその一人なのだろうか。

そう思うと、何も言うことができなかった。 

 

 

 

遠距離恋愛をしていた彼女が浮気していたことが分かったのは逮捕される1週間ほど前のことである。会うことはできないので、電話で怒った。かなり怒鳴り、汚い言葉を吐いた。

 

結局その後のやりとりで許した。次の週には会うことができるので、その時に少し話そうという約束をした。その次の日に警察が来たため、結局会うことは無かった。

 

心当たりとしてはこの内容だし、実際このことで逮捕されたのだが、自分としては仲直りをした(少なくとも私はそう思っていた)内容だったので逮捕されるとは思わなかった。

 

逮捕に関して異論はない。私が行ったことは犯罪である。

 

 

携帯の画面に表示される汚い言葉の羅列を指差し、それを警察が写真を撮った。

 

部屋に太った蝿が入ってきた。行き場を無くしている。

 

逮捕状に書いてある内容を読まれ、家の中で手錠を掛けられた。

私は脅迫罪で逮捕された。